血液がんの最新治療法 CART細胞療法

今日は、血液がんの最新治療法 CART細胞療法についてお話したいと思います。

がんと戦う武器がCAR(Chimeric Antigen Receptor, キメラ抗原受容体)という名前で、T細胞を強化するため、「CAR-T細胞療法」と呼ばれています。

CAR-T細胞療法は、2019年5月に、急性リンパ性白血病の治療法として日本でも認可された全く新しい治療法です。現在は、急性リンパ性白血病のほか、B細胞性の悪性リンパ腫や多発性骨髄腫にもこの治療法が使われています。

CAR-T細胞療法は、患者さん自身が持っている免疫細胞の一種、T細胞を血液から採取して、がんと戦うように強化して体に戻すという高度な免疫細胞療法です。

しかし、治療費がなんと1回3000万円超となっており超高額です。患者さんの負担は高額医療費助成が適応されますので安心ください。

ポイントは、“患者さん自身”の免疫細胞

がんは、免疫系ががん細胞の増殖を抑えることができないために進行します。そこで、血液癌の白血病には健康な方の免疫細胞を借りる、造血幹細胞移植、一般的には骨髄移植が行われてきましたが、他者の免疫であるため、移植された免疫細胞が患者さんの体内でがんのみならず正常な組織も攻撃するという現象が起きることがありました。

CAR-T細胞療法は患者さん自身の免疫細胞が元となっているため、そのような心配がなく、骨髄移植のようにドナーを探す必要もありません。

昨年1月から、岐阜大学医学部附属病院でも、岐阜県内で初めてこの治療法が開始されています。実は、私は10年ほど前にアメリカに留学し、このCAR-T細胞療法の基礎研究に携わっていましたので、感慨深い思いです。

Tumor indoleamine 2,3-dioxygenase (IDO) inhibits CD19-CAR T cells and is downregulated by lymphodepleting drugs

それでは、もう少し詳しく説明します。

CART細胞療法の適応となる患者さんは、現在のところ「悪性リンパ腫」「白血病」「多発性骨髄腫」に適用となっていますが、詳細に見た場合、その中の全てのタイプが対象となるわけではありません。がんの詳細なタイプに加え、「再発を繰り返している」「難治性である」という点も必要です。詳しくは、主治医の先生に確認ください。

CAR-T療法の流れ

CAR-T療法の流れを説明します。

CAR-T療法では、まず、患者さんの血液から献血のようにベッドに横になった状態で、アフェレーシスという機械を使いリンパ球を取り出します。

取り出したリンパ球は、製薬会社の施設へ送られます。

製薬会社の施設で、ウイルスベクターを使った遺伝子導入により患者さんのリンパ球にCARを発現させます。CARを発現したリンパ球はがん細胞の表面に発現する抗原を特異的に認識し攻撃するようになります。そして、リンパ球の中のT細胞を選択的に増やす条件下で、CARを発現させたT細胞を大量に増幅培養します。培養には10日から2週間程度かかりますが、培養後の品質検査などもあり、実際に投与の準備が完了するには2か月ほどかかります。

製薬会社の施設から治療する病院へ完成したCART細胞が送られてきたら、点滴により患者さんの体に戻します。CAR-T細胞を患者さんの体内に戻すときには、前処置として患者さんに抗がん剤を投与します。これは、体内のリンパ球を減らすのが目的です。

患者さんの血液に投与されると、CART細胞は全身を回って、がん細胞を見つけ出し攻撃します。さらに、その際に伝わる刺激により、CAR-T細胞自身が患者さんの血液内で増殖することから、投与は一度のみで行われます。

CAR-T療法の治療薬は、投与すると効果が長続きするのが特徴の1つです。CAR-T細胞は体内で1000倍ほどに増え、しかも半年から1年以上も体内に残って効果を発揮し続けることがわかっています。

治療効果

治療効果は、がんの種類によって異なりますが、急性リンパ性白血病に対する米国の臨床試験の結果を見ると、再発・難治性を対象とした試験では、完全寛解を得られた患者さんが90%と驚異的な数字です。また、悪性リンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では、およそ4割~6割が「完全寛解」という状態に至ると報告されています。CAR-T細胞療法が登場する以前の寛解率は1割以下でしたので、それが4~6割に向上しています。

主な副作用

CAR-T細胞療法では、通常の抗がん剤治療のような嘔吐や脱毛といった症状とは異なる副作用が生じます。特に注意が必要なのが「サイトカインストーム」という全身の強い炎症症状です。サイトカインとは敵を倒すために免疫細胞が出す物質。免疫反応に必要ですが、過剰になると攻撃の矛先が全身の臓器へと向かい、命の危険が生じる場合もあります。

血液がんの最新治療であるCART細胞療法についてお話ししました。血液癌に限らず、すべての癌にCART細胞療法が使われ、癌患者さんの予後がよりよくなる日が来るかもしれません。

二宮医院 腫瘍内科 血液内科

新駐車場の看板です。