大腸癌による死亡を予防する

日本の大腸癌死亡者数は1年間で5万人を超え、男性では肺癌、胃癌についで第3位、女性ではなんと第一位です。男性では、11人に1人、女性では14人に1人が大腸癌になる可能性があります。先進7か国のうちで最も高い死亡率であり、人口が2.5倍多いアメリカと比べても日本の女性の大腸癌死亡者数は多くなっています。

これは、日本人が長寿になり、肥満の増加、欧米食の増加(高脂肪、低線維食)、運動不足、飲酒や喫煙などの影響で大腸癌が増加していること、さらに日本の大腸癌検診の受診率の低さ、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)への抵抗感による早期発見率に低さに起因しています。

大腸癌による死亡を予防する方法は、

①便潜血検査を用いた大腸癌検診を毎年受けること。

②1日でも陽性であった場合、大腸カメラを受けること。

③大腸カメラで腫瘍性ポリープがあった場合すべて切除すること。

です。

・便潜血検査による大腸がん検診

便潜血検査では便に血が混じっているかどうか調べます。目に見えないわずかな出血も検知することが可能です。

大腸がんや大腸ポリープがあると、便が腸内を移動する際に便と組織が擦れて血液が付着するため、肉眼的な血便や便の狭小化、腸閉塞など進行大腸癌の症状が出る前に発見が可能です。

海外の臨床試験によって毎年便潜血検査(化学法)を受けることで、大腸癌による死亡率が33%低下する事が証明されています。また、国内で広く用いられている免疫法については、1日法による検診を毎年受診することで大腸がんによる死亡が60%減少することが報告されています。

現在大腸がん検診で用いられている免疫学的方法は、ヒトヘモグロビンに対する抗体を用いて血液の有無を検出する方法で、肉や魚の血液には反応しません。つまり、人間の血液のみに反応します。胃酸や腸液などの消化液により、ヘモグロビンが変性するため食道や胃などの上部消化管からの出血は検出されず、下部消化管からの出血のみを検出します。

便潜血検査:

便の採取は専用の採取キットを用いて自宅で行います。便の表面を採便用の棒でまんべんなくこすり、2日間分の便を採取します。食事制限の必要もない簡単な検査です。

採取キットには、水洗トイレ用の水に浮かべる紙(トレールペーパー)と詳細な説明書がついていますので安心してください。

*初めて大腸がん検診(便潜血検査)を受けられる方は、採取方法を当院にてご説明させていただいています。

便潜血検査キット

各務原市の大腸がん検診

対象者:市に住民登録がある40歳以上(年度末年齢)の方

方法:問診・便潜血検査(2日間分) 年1回毎年受けることが可能

費用:500円

国保の「特定健康診査」や「ぎふ・すこやか健診」を同時に受診する場合には、無料で受診することができます。

国保の健診を受けられる方は、ぜひ無料の大腸癌検診をセットで受けてください。

・便潜血検査が陽性だった場合

大腸がん検診の便潜血検査で1日でも陽性であった場合、要精密検査となります。

精密検査としては、大腸内視鏡検査が推奨されています。

便潜血検査で陽性になった患者さんで、精密検査を受けなかった場合、大腸癌による死亡が約5倍高くなるとの報告があり、そのまま経過観察や便潜血の再検査は推奨されていません。

便潜血検査免疫法の感度(大腸がんがある場合に便潜血検査が陽性となる確率)は、報告や算出方法によってかなりの差がありますが、30.0~92.9%です。つまり、大腸癌があると高確率に便潜血が陽性となるという報告がありますが、大腸癌があっても便潜血検査が陰性となる確率も十分あります。大腸癌に対する全大腸内視鏡検査の感度は95%以上であり、大腸癌を確実に発見する方法は大腸内視鏡検査となります。早期発見、早期治療が死亡率の低下につながります。

大腸内視鏡検査を受けることで、大腸癌の早期発見、大腸ポリープの発見と同時に内視鏡的ポリープ切除が可能です。また、大腸癌やポリープ以外にも大腸憩室、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、脂肪腫、カルチノイド、痔などの疾患の診断も可能です。

便潜血検査が陽性だった場合、必ず大腸内視鏡検査を受けてください。

・大腸ポリープ

大腸ポリープとは、大腸の粘膜の一部が盛り上がり、大腸の内部にいぼ状に突出したものを指します。平らなものやきのこ状のものなど様々です。大腸ポリープのほとんどは、自覚症状がありません。大腸ポリープは発見時に数mmの小さなものから数cmを超える大きなものまでさまざまです。肛門付近にポリープができている場合は、ポリープが小さくても血液の混じった便が出るなどの症状が現れることがあります。

大腸ポリープのなかでも最も生じる頻度が高いものは、「腺腫性ポリープ」です。 大腸ポリープは、良性の病気です。ただし、大腸癌は良性の腺腫性ポリープから遺伝子変化を起こして、癌になるものがあります。このような理由から、腺腫性ポリープが発見されたときには、良性の段階で早期に治療することが大腸癌の予防のために重要です。

大腸癌は早期の段階では多くは目立った自覚症状がありません。進行して大きくなってくると、血便、便秘、便が細い、残便感、腹部膨満感などの便やお腹の症状が出てきます。つまり、症状が出た時には、すでに進行した大腸癌になっていることもあります。そのため、自覚症状が出る前の段階で大腸ポリープを発見することが重要です。

 大腸ポリープや大腸がんは30歳代頃から増え始めます。40歳以上の人は毎年大腸がん検診を受けることがすすめられています。また、大腸癌や大腸ポリープになりやすい家系の人もいるため、家族に大腸癌や大腸ポリープと診断された人がいる場合は、大腸内視鏡検査を受けることが大切です。

 国内では、大腸ポリープは、大きさ6mm以上は切除が推奨されており、5mm以下でも形態に応じて切除が推奨されています。ポリープが大きくなるにつれ、がんである可能性は高くなっていきます。しかし、世界的には発見された腫瘍性ポリープはすべて切除することが基本的な方針です(クリーンコロン)。どのポリープが将来がんになる可能性があるかどうかは、現状では判断することができないため、全ての腫瘍性ポリープを切除することで大腸癌の予防になるという考えです。しかし、国内ではポリープ切除の安全性、労力、コストなどが考慮されての推奨がなされています。

・大腸ポリープ切除

 大腸ポリープの切除方法としては、ホットバイオプシー、ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、コールドスネアポリペクトミーなどがあります。これまでは、鉗子やスネアに通電をしてポリープ周囲の粘膜を焼き切る方法が主流でした。通電することで止血効果やポリープ焼灼効果がありますが、穿孔や深部の太い血管を損傷することによる後出血のリスクがありました。

 (このポリペク後出血のために、消化器内科の当直医は何度も緊急内視鏡止血術のために呼び出された経験があると思います。)

 しかし、コールドスネアポリペクトミーを行うようになってから、ポリペク後出血が減少しました。手技も簡便であり、検査時間の短縮にもつながっています。ただし、有茎性の病変は出血リスクが高く、また癌を疑う病変にはEMRが必要です。

 ポリープを切除した後は、病変を回収し、顕微鏡の検査(病理検査)にて最終診断をします。結果には1週間から10日ほどかかります。ポリープの異型度、悪性所見の有無、切除断端の所見がわかります。

 便潜血検査が陽性だった場合、必ず大腸内視鏡検査を受けてください。

当院では、完全プライベート個室での前処置、鎮静剤を用いた大腸カメラ、日帰り大腸ポリープ切除を行っています。