鉄欠乏性貧血

日本人女性の15%が鉄欠乏性貧血であるとの報告があります。貧血による症状は様々で、緩徐に進行した場合は症状を自覚しないこともあますが、全身への酸素の運搬能は低下しており、体に負担がかかっています。また、貧血の原因検索は重要です。漫然と鉄剤を内服して貧血が改善しない方は胃や大腸の検査が必要です。当院では貧血の原因検索、胃カメラ、大腸カメラが可能です。

鉄剤の内服に抵抗がある方もいらっしゃいますが、内服方法や副作用対策によって飲みやすい方法を提案しています。またどうしても内服が困難な方は鉄剤の静脈注射を行っています。

*貧血の症状

鉄欠乏性貧血に見られる主な症状は以下です。貧血の程度(ヘモグロビンの値)と症状は並行しないことが少なくないです。長い時間かけて進行していると自覚症状は感じにくいことがあります。ご自身の症状と照らし合わせてみてみましょう。

①疲れやすい

少し動いただけですぐ疲れが出てしまうという症状は、貧血で体の酸素が不足するとよく表れます。筋肉が酸欠状態になると代謝が悪くなり、だるさや肩こりなどの原因となります。

②息が切れる

血液中の酸素量が低下しているため、より多くの酸素を全身に巡らせようと体が無理をしてエネルギーを使うため、呼吸が速くなり息切れ、動悸を感じることがあります。

③めまい、たちくらみ

貧血により脳が酸素不足になって起こるめまいは、足元が安定せず浮遊感のような症状を伴うのが特徴です。

④顔色が悪い

元々、頬の赤みはヘモグロビンの色素から来ているので、貧血になると顔が青白くなります。鉄不足によって新陳代謝が鈍くなり、肌の潤いも失われます。

⑤眠れない

太ももやふくらはぎ、足の裏にまるで虫がはっているような不快感のある「むずむず脚症候群」も鉄欠乏性貧血が原因の場合もあります。

⑥爪が弱くなった

爪が弱ったり、薄く割れやすくなったりします。爪の先がそり返る「スプーンネイル」にもなりやすいといわれています。

⑦氷を大量に食べてしまう

鉄不足の人に見られる症状として、氷をガリガリむさぼるように食べる「氷食症」があります。

⑧月経の出血量が多い

他人と月経の量を比較することは少ないため自覚されていない方が多いです。一般的に下腹部に力を入れると血液の塊が出る、夜用ナプキンを昼にも使うような方は過多月経と考えられます。「過多月経」は、貧血を起こす原因の一つです。ただ、子宮筋腫、子宮癌などの病気が潜んでいることもあるので注意が必要です。一度、婦人科を受診してください。

⑨胃を切除した

胃を切除すると、鉄をはじめとする栄養素の消化吸収力が低下するため、貧血の要因となります。手術して何年か経ってから貧血の症状が表れることもよくあります。

⑩食事に偏りがある

肉を食べることが少なく、食事から鉄分の摂取が十分できていない方。ダイエット中や偏食がある場合は、鉄不足になり易いです。

⑪便が黒い

胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんや大腸癌などの消化管からの出血によって、便が黒くなります。痔出血からも貧血になります。男性の鉄欠乏性貧血には注意が必要です。

⑫妊娠・授乳・成長期

胎児や授乳のために必要量が高まります。妊娠中期以降は普段の約2.4倍の鉄分の摂取が必要です。成長期には筋肉の発達に伴い鉄の需要が増加するため、男女問わず鉄分を多く摂取する必要があります。特にスポーツをするお子さんでは汗や尿中への鉄の喪失、筋肉トレーニングによる筋肉の著しい発達により貧血になりやすい傾向があります。

*鉄欠乏性貧血の治療

症状が軽くてもヘモグロビン(Hb)が10g/dl以下の方は治療をすることで、酸素運搬能が上昇し体調が改善します。貧血が続くと体に負担がかかり続けることになります。フェリチンが低値の明らかな鉄欠乏性貧血は食事のみでの改善はむずかしいことが多いです。

➀鉄剤の内服

内服により約20%の患者さんに吐き気、便秘、腹痛、下痢などの消化器症状が生じますが、内服時間や回数の変更で対応可能なことがほとんどです。便が黒くなりますが心配しないでください。

2~3か月内服を続けることで貧血は改善しますが、貯蔵鉄であるフェリチンが正常化するまで内服を続けます。

➁鉄剤の静脈注射

副作用が強く鉄剤を飲めない場合、胃や腸の病気のため吸収が悪いときなどに行います。

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